たぶん、今まで観た戦争映画の中でも、強烈な印象を与えるものだと思う。
しかも、その語り口は静かなものであるので、なおさら染み入るものであった。たぶん、その原因は、敵として描かれているのが日本人だからだとおもう。この作品は、アメリカ側から描いているので(日本側から描いた続編もある)、倒すべき相手は日本人。けっして、遠い国のドイツ人ではないのだ。
俺は、兵器が好きだし、血沸き肉踊る戦争映画が大好きだが、この映画の戦闘シーンは震えるほど怖いものであった。ノルマンディー上陸作戦を描いた「プライベートライアン」のような弾幕に向かって突撃上陸する恐怖ではなくて、どこからか撃たれるかわからない恐怖だ。
映画の題名は、硫黄島の戦闘での有名な星条旗を揚げる兵士の写真からきている。
アメリカ市民には伝えられなかったが、この旗は2回目に擂鉢山に立てられたもので、この写真撮影以降も日本軍は抵抗を続け、写っている6人のうち3人が戦死している。そして残った3人(1人は写真に写っていないし、旗を掲げてもいないのに)は、軍事資金に困った米政府が行った戦時国債キャンペーンに動員され全国を引きずり回されることとなる。まるで見世物のように……。たぶんほとんどのアメリカ人は、イラク戦争でのジェシカ・リンチの茶番劇を思い出すだろうと思う。
まさに、戦争というものは、国民を欺くものなのだってことが、これでもか、これでもかと描かれる。その酷さや欺瞞は、戦場のそれと同等のものであった。
陳腐な反戦や好戦などというメッセージはこの映画にはない。
いまも続く、イラクでの理不尽な米兵の戦死を、イーストウッドが静かに訴えているように思えたのは、俺だけだろうか?
エンドロールで映し出される、当時の硫黄島での写真と、その最後に映し出される映像は深く心に刻まれるはずだ。
【蛇足】
戸田のババァの字幕は良くなかった。ジャップを日本兵と訳していたが、それでは海兵隊兵士の差別感情と憎しみが表現されない。それに相変わらず上品過ぎて、彼らのスラングは訳されない始末。ケツの穴にぶちこむぞ!
続編の「硫黄島からの手紙」の出来が気になる。予告編が上映されたが、「ラストサムライ」や「男達のYAMATO」に出てきた俳優のイメージで感情移入は困難なのではないかと……。
飲酒運転で、隣にネーチャン乗せてた河原乞食に、玉砕覚悟で戦った日本兵の役はムリでないかと……。