映画「太陽」を観てきた。
ロシアのソクーロフ監督が撮った「昭和天皇」の終戦を描いた映画である。
http://taiyo-movie.com/
内容は左右の思想を超えた素晴らしいものであった。バカ映画「日本沈没」(「日本以外全部沈没」はお勧め)に涙した映画音痴たちと、敗戦記念日に靖国参拝した輩はもちろんのこと、全日本国民必見の映画である。文部科学省推薦にしても良いくらいのものだ。
上映館は、初めて行った銀座シネパトス。東京都中央区銀座4-8-7三原橋地下道が住所。都営地下鉄浅草線東銀座駅が近い。
昭和30年代に出来た建物だと思う。地上部分はバウハウス調のもので、古きよき銀座だ。同じ地下にはおでん屋や、ポルノショップまであるのがイイ味だしてる。
俺は初回の11時に間に合うように行ったのだが、すでに立ち見の満員で、整理券を貰って、次の12時の回で見ることとなった。さすが東京。映画好きが多いね。老若男女幅広い層が観に来ていた。
さて中に入って、ちょっとガッカリ。シートは良いのだが、札幌のシアターキノ並みにスクリーンが小さい。それと外の音が筒抜けで、職員の呼び込みが気になった。要改善。それと昼だったので上映中ガサガサとパン食ったり煎餅ボリボリのオバサンにはマイッタね。
さて、前置きはこのくらいにして映画「太陽」だが、監督の名前は聞いたことないので、ただイッセー尾形が昭和天皇を演じているから観に行こうと思っただけ。ソクーロフ監督の映画を観るのは初めてなので、正直、トンデモナイ内容になっているかと。ディズニーの「パールハーバー」のような国辱ものでは……と心配した。
ところが、その心配は、最初のシーンで吹き飛んだ。昭和天皇が御前会議に出席するために、皇居の地下壕で軍服に着替えをするシーンなのだが、その衣装と家具調度品、小物の再現は素晴しいものであった。相当に金をかけていると俺は直感した。
ロシア語通訳として「太陽」に参加した児島宏子さんによれば、衣装はすべて写真や記録映像を参考にして仕立てを行い。クローズアップされることがない菊の紋章のボタンまで特別に作っていた。食器も特別に製作されたものだ。建具はロシアの一級の職人にあつらえさせたらしい。劇中、天皇が使用したアルバムも特注だ。監督が細心の注意を払い、この映画に臨んだことがわかる。
この映画のキモはイッセー尾形の昭和天皇の出来だ。本当にソックリなのだ。俺は20年以上前に、テレビ「お笑いスター誕生」で観て以来、彼のフアンだが、彼の最高の仕事だと思う。
演技以前に、「昭和天皇」の役を引き受けた勇気を称えたい。深沢七郎の小説「風流夢譚」が『中央公論』1960(昭和35)年12月号に掲載されたことによる右翼テロ「嶋中事件」以後、メディアで昭和天皇を表現することはタブーとなっているのが、似非民主主義国家日本の現状であるからだ。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8F%8A%E3%82%BF%E3%83%96%E3%83%BC
イッセー尾形の演技は、過去の日本映画では描かれなかった、現実の昭和天皇の実態をさらけ出している。
とくに70年以降の昭和天皇の癖である口パクパク(俺は、札幌オリンピックの開会宣言で体験している)を、この時代で形体模写することにより、より一層、「ハッキリ言いたくても言えない」天皇の心理の深層にまで迫ることができたのではないだろうか。一部の人間が「天皇の品格に欠けている」などと批判しているが、本来なら、昭和天皇は若い頃から相当な猫背で見栄えのしない人。
(1943年6月24日、木更津沖に碇泊中の戦艦武蔵を昭和天皇は訪問した)そこへ天皇が上がってきた。あの人、ちょっとガニ股ですよね。すこし前かがみになって舷梯を上がって甲板におりましたが、ぼくはふっとその白服を見た瞬間、あれが、天皇かなと思って自分の眼をうたぐいましたね。まだあとからホンモノの天皇がくるのかと思った。当時は山本長官が亡くなったあとで、司令長官は古賀司令長官で、古賀長官が天皇を長官公室へ先導していったんですが、そのときヒョイッと見ると、天皇は大砲やマストなんかまわりをキョロキョロ見回して落ち着きがないんですね。威厳の点では、古賀長官のほうがずっと堂々として、威厳にみちていましたね。あれっとおどろいて、そういえばだいぶ猫背で眼鏡をかけたあの顔は、ぼくの村の収入役の斉藤さんという人にそっくりだ、と思った。そう思いながら一方ではすぐ”おれはなんてバチ当たりなことを考えるんだろう”と思ったのね。なんという不忠者だ、畏れ多くも一天万乗の大君に対して、村の収入役と同列に考えるとはなにごとかと、自分で自分を叱責したわけですよ。自分で自分の眼にうつった実体を裏切るわけね。(渡辺清著『私の天皇感』より)
ひどい猫背をしなかったのは侍従長役の佐野史朗によれば、イッセー尾形は現場でもっとすごい形態模写したらしいのだが、それを全部削ぎ落としたらしい。その結果、映画では「人間宣言」をした後も何も変わらない昭和天皇の淡々とした様子が描かれている。
「あ、そう」という、有名な昭和天皇の口癖も、イッセー尾形は効果的に使っている。同じ「あ、そう」でも、そのイントネーションや喋るスピード、連発する回数によって、昭和天皇の微妙な内面を演じているのだ。
御前会議の後、天皇は皇居地上の研究所にて、届けられた平家蟹(滅亡の危機に立つ皇室を揶揄している)を観察し、子供のように興奮。解説に饒舌になる。いつのまにか蟹の話が、戦争責任に関しての話となっていくのが絶妙だ。
そして、寝る前に疎開している愛する息子(今上天皇)に手紙を書いたりして……。ただ旧仮名遣いで書いてほしかったな。http://anarchist.seesaa.net/article/10730551.html
東京大空襲の夢にうなされる昭和天皇。この場面はまさに映画である。その惨状を直接描くことなく、空を飛ぶ魚が爆弾を落とすCGで表現されている。前記の日本人スタッフ児島さんによれば、04年3月10日、偶然にも東京大空襲の日にキャスティングのため来日していた監督とスタッフたちは下町の戦争博物館(東京大空襲・戦災資料センターのことであろう)を訪れていた。http://anarchist.seesaa.net/article/17940473.html
彼らはそこで、この残虐な東京大空襲の責任者カーチス・ルメイ将軍に、64年、昭和天皇が勲一等旭日大綬章を授与したことを知り、「太陽」の撮影を断念しようとまで思ったらしい。
「戦争に反対しても、独裁に反対しても(同じ過ちは)繰り返される」と監督は答え、制作は続けられることとなった。
幻想的な爆撃のシーンには、この時の想いがこめられているのだろう。
終戦の玉音放送の下りは、映画では描かれず、いきなり占領軍による「天応撮影騒動のシーンとなる。昭和天皇は占領軍にチャーリーとあだ名されていた。そこで出てくるのがなんと「鶴」。一瞬ドヒャーンとしたが、インパクトはでかい。
そして占領軍に迎えられマッカーサーに会いに行く有名なシーン(実際は天皇の公用車ベンツで行ったのだが)。途中、天皇は焼け野原で、泥棒してでも生きようとする国民を見てしまい、心を痛める。
マッカーサーとの密談シーンは、ちとダレルかも。昭和天皇を擁護しようとする通訳は、監督の配慮か……それでも、天皇がマッカーサーの葉巻の火を直接移すシーンはホモセクシャルのキスシーンを想像させ注目。実際、監督は有名な男色家だそうだ。
あとは、思わず笑ってしまう多くのシーンが印象的だ。子供のときにこの映画を観ておけば、どんな人間も昭和天皇にオモシロイ普通のオジサンとして好印象を持つだろう。
そして最後に、疎開していた設定で(実際は疎開したのは皇太子だけ)、皇后と再会することになる。
思わず、終戦の大仕事「人間宣言」で心労で疲れ、皇后の肩に顔を埋める天皇が愛おしい。
皇后は昭和天皇にとって妻であり母であった。意外に冷淡であった皇后を桃井かおりが良く演じている。
戦争中戦後を通して、天皇が懊悩として夜中歩いたり独り言を繰り返していると、寝られないから「うるさい」と言っていたそうだ。全然同情しないのだ。
この時、皇后の帽子のベールが取れないのだが、ここは本当にアクシデントでアドリブでかわしたママだそうだ。2人の絶妙な演技!
お互いに「あ、そう」「あ、そう」で心が通じているのが表現され、大広間で待っている皇太子に会いに行こうとする寸前、侍従長より悲しい知らせが報告される。
「玉音放送を録音した技師が自決しました」と……。
「止めたのか」と尋ねる天皇に、侍従長は無言のまま。
一瞬、時は凍結されるが、皇后にそかされて、足早に大広間に向かっていく。
まさに人間天皇の苦悩とその2面性(沢山の犠牲者を出した戦争の大元帥であり、天皇であり、優しい子煩悩な父であり、妻に甘える良人)を印象付けたラストであった。
返す返すも残念なのは、この映画が、日本人が作ったものでないこと。ロシア人にこんな傑作を作られたら、これを超す昭和天皇の映画をどうやって作ればいいのか……。
右寄りの映画好きが書いている
へちょいサイトですけど、どうぞ
よろしく。ペキンパーが好きなので
そっちの評論もちょくちょく書いてます。興味があれば観てやってください。右寄りなのでお気に召さないかもしれませんが(汗
ソクーロフ監督は日本に対する造詣が
深い人で、
奄美を舞台にした「ドルチェ-優しく」
なども撮られています。
こちらも機会があれば是非どうぞ。
この作品を観てぶったまげましたよ、当時は。インパクトは「ヒトラー最期の12日間」に匹敵するかそれ以上でしたな。無論その時点でソクーロクのファンになってしまいましたよ。彼の作品「牡牛座」を見逃したのはかえすがえすも残念。勿論「太陽」は観に行かなくては。(今回はラピュタ阿佐ヶ谷じゃないのね)
余談であるが私がよく訪問するある映画批評家のサイトではこの作品クソミソに扱き下ろされていた。ま、チャンネル桜にリンクしているようなサイトだから期待するほうが無理か。(笑)
ページ上部の文字数行が、IEでは正常に表示されていますが、Firefox,Opera,Safariでは正しく表示されず、何が書かれているか判読困難です。
これらのブラウザでは最上部の4行目から8行目にかけてその次の行と重なって表示されています。
改善されることを望みます。
ソクーロフ、モレク神もすごかったそうですね。もっと早く知っていれば……脳梗塞になって没落していくレーニンを描いた牡牛座はかなりヤバイそうです。
前田某ですな。あれは酷い
死ぬのはさんの
>>映画好きは左右の思想を超越しますよ。
と言う言葉を超越するほど好き嫌いがはっきりしてますね
結論を先に言わせてもらえばこの作品は「傑作」だと思います。まず昭和天皇のプライベートな部分に焦点を合わせたのが素晴しい。無論天皇のプライベートなど側近でさえ100%知るはずもないので当然の事ながら監督の想像に違いないのですが、あたかもそれが事実であるかのように観客に錯覚させる技量は凡人の域を遥かに凌駕しているといっても過言ではないでしょう。無論、それは主演のイッセー尾形や皇后役の桃井かおりの演技力に支えられていることは改めて言うまでもない事ですが。
私はこの作品を観て昭和天皇が好きになってしまいましたよ。(笑)天皇の“人間らしさ”が如何なく表現されており、それがこの作品のテーマなのでしょう。私が観た映画館は120席あまりの小さな劇場ですが、エンドロールが終了し館内が明るくなるまで満場の誰一人として席を立たなかったのはこの作品に対する関心の深さと高い評価を表しているものと思われます。
ところで前田氏の批評ですが、この作品を読み解く能力の著しい欠如をきたしているとしか思えません。「多くの愛国的日本人にとっては、かなり不愉快な印象を受ける作品」(評価30点)との批評は自ら愛国◯鹿である事を露呈したものと思われます。また評点30点とは「見る人をかなり選ぶか、つまらない作品」という事ですから彼のいう“一般人”とはおそらく年に数回、ハリウッド映画しか観ない人のことを言うのでしょう。映画ファンも随分となめられたものです。
余談ですが某有名タウン誌発表の一般による評価は84.1点。まああの悪評高き「ゲ◯戦記」ですら83.9点ということですから(笑)かなりいい加減かもしれませんが。
ともあれ、イッセー尾形の演技を観るだけでも充分に価値はあると思います。(爆笑シーン多数あり)
真の愛国者はもちろん、そうでない人も今すぐ劇場へ急げ!(但し前田某のような似非愛国者はダメよ・笑)
そう、決してイッセー尾形だけの話ではなくて。
他の方も触れられている『モレク神』については、実際、演出の上でも意図的に本作と対照をなしている箇所が多くて非常に興味深いです。しかし残念ながら日本国内では現在入手不可能.....そのため、『ヒトラー最期の12日間』を引き合いに出して本作について語っておられる方が散見されるのがいささか残念なところです。
残念といえば、こちらの記事にTBしようと思ったらうまく行かないのも残念でござる(笑)
」になってしまいます。しょんぼり。
使用しているテンプレートの相性とかあるんでしょうか?超謎であります.....は! ま、まさか実は米軍の陰謀とか!?(爆)
いまや柔道も空手も日本よりもロシアで盛んです。
レベルも高い。
日本の心は、日本にいる我々よりも、すこしはなれたロシアの日本通の人たちに受け継がれているのかも知れません。
他の記事も読ませて頂きましたが、大の米嫌いですのね?(^^)私はアホな主婦なのでユダヤマネーと米・日の関係を知りたいです〜♪また教えて下さい!
権力としての米帝は嫌いですが、アメリカ文化は大好きですよ。
音楽、ファッション、クルマに映画にジャンクフード!!